終了事由
2019年10月25日
「家族信託の終了事由、どう定める?」
というテーマについて、お伝えさせていただきます。
―・◆本日の目次◆―・―・―・―・―・―
1.終了事由の設計に必要なこと。
2.信託終了事由の具体例
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1.終了事由の設計に必要なこと。
家族信託を設計する段階で、
非常に重要となるのが、
「いつ、信託が終了するのか。」という点です。
終了事由の定めは、その信託の目的に応じて
設計する必要があります。
例えば、不動産の売却が絡む
信託案件であっても、
(1)売却そのものが目的である場合
(2)不動産も含む委託者の財産の
管理・保全を目的とする場合
(3)数世代に渡り、信託財産の管理運用を
受託者に任せたい場合
と各場合によって終了事由がことなります。
以下は例ですが、
(1) については「不動産の売却完了」、
(2)については「委託者の死亡」、
(3) については、「次世代の受益者の成人」
や「次世代の受益者の死亡」
などが考えられます。
2.信託終了事由の具体例
信託法は、次の条文によって、
法定の終了事由を定めています。
この法定の終了事由と、信託契約で定める
終了事由を組み合わせることで、家族信託の
終了事由を設計します。
今回は、主に実務で触れることの多い
終了事由をピックアップして解説いたします。
(信託の終了事由)
第163条 信託は、次条の規定によるほか、
次に掲げる場合に終了する。
一 信託の目的を達成したとき、又は
信託の目的を達成することが
できなくなったとき。
二 受託者が受益権の全部を固有財産で
有する状態が一年間継続したとき。
三 受託者が欠けた場合であって、
新受託者が就任しない状態が
一年間継続したとき。
四~八 (略)
九 信託行為において定めた事由が生じたとき。
【1】 第163条第一号
信託の目的を達成したとき、又は信託の
目的を達成することができなくなったとき。
家族信託契約では、必ず、信託を行う目的が
定められています。
その目的を達成すれば、
信託を継続している必要はないため、
信託は終了します。
例えば、孫の大学までの学費を、
自分の子(孫の親)に管理させるような
信託を設計した場合、孫の大学の卒業をもって、
信託は終了します。
逆に、孫が大学卒業までに死亡して
しまったような場合には、条文後段の、
「信託の目的を達成することが
できなくなったとき。」に該当し、
信託が終了します。
【2】 第163条第二号
受託者が受益権の全部を固有財産で
有する状態が一年間継続したとき。
受託者が受益者と同一の場合には、
信託を維持する意義が失われるため、
信託が終了することが信託法上で
定められています。
しかし、受益権を相続した場合など、
当事者の意思に反して、受託者と受益者が
一致してしまう場合も想定できます。
そこで、そのような場合にまで、即、
信託を終了させてしまうのは適切ではない
という観点から、
受託者と受益者の一致状態を解消するための
猶予期間として、一致する状態が開始してから、
1年間は終了しないと規定しています。
なお、この条文は、受託者が受益権すべてを
有している場合についてのみ規定しているため、
受益者が受託者以外にも存在する場合
(受益者が複数の場合)は、信託契約は
終了しません。
また、この規定は、強行規定と
解釈されているため、これよりも期間を
伸長する(猶予期間2年とする等)ことを
契約上定めても、その規定は無効となります。
【3】 第163条第三号
受託者が欠けた場合であって、
新受託者が就任しない状態が一年間
継続したとき。
信託財産の所有者である受託者がいなくなった
場合、信託を続けることが困難なため、
家族信託は終了します。
例えば、受託者の死亡や破産、辞任等を
した場合です。
ただし、受託者の引継ぎの期間を考慮して、
受託者が欠けてから1年間は終了しない
ものとされています。
なお、この1年間の猶予期間中、財産の管理は、
引き続き受託者が行うのが原則です。
(信託法第59条)
また、この規定も強行規定と解されるため、
1年間の猶予期間を伸長するような
信託契約の定めは、無効となります。
家族信託においては、通常、
当初の受託者が受託者を続けられなくなった
場合に備えて、その役目を引継ぐ人
(第二受託者)を定めておきます。
具体的には、当初の受託者の配偶者、
子を第二受託者とするケースが一般的です。
ただし、契約で、子や配偶者を
第二受託者と設定しても、実際には、
第二受託者の承諾がなければ受託者とは
ならないため、
受託者の職務を引き受けてもらい易くするため、
受託者報酬を定めておくなどの工夫も
検討します。
【4】 第163条第九号
信託行為において定めた事由が生じたとき。
この規定は、信託の終了事由を
信託契約において定めることができる
根拠となる条文です。
この規定に基づく終了事由と、
法定の終了事由を組み合わせて、
信託を設計します。
例えば、通常の家族信託では、
当初の委託者が死亡した段階で、
その役目を終えるため、
当初委託者の死亡時点で信託を終了させる旨の
定めが多く用いられます。
また、当初委託者の死亡後、
その子の生活支援が目的の信託の場合、
その子の生活支援が必要なくなった場合に
終了する旨の定めが適切でしょう。
【5】 その他の終了事由
信託法は、第163条以外にも、
終了事由を定めています。
1.委託者と受益者の合意に基づき
終了する場合
信託法第164条第1項
委託者及び受益者は、いつでも、
その合意により、信託を終了することができる。
この規定は、任意規定であり、本条文に反して、
信託契約に、
「委託者と受益者の合意では、信託を終了できない」とするような定めを
設けることもできます。
2.受益者連続型信託の限界
信託法第91条
受益者の死亡により、当該受益者の有する
受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を
取得する旨の定め
(受益者の死亡により順次他の者が受益権を
取得する旨の定めを含む。)のある信託は、
当該信託がされた時から三十年を経過した時
以後に現に存する受益者が当該定めにより
受益権を取得した場合であって当該受益者が
死亡するまで又は当該受益権が消滅する
までの間、その効力を有する。
受益者連続型信託とは、受益権が子の世代、
孫の世代と引き継がれていく類型の信託です。
このような信託を設定した場合、
数十年単位での信託の継続が見込まれます。
信託法は、このような場合の信託の
継続期間の限界を定めています。
条文が複雑ですが、
分かりやすく解説をいたしますと
「受益者連続型信託の場合、信託された時から
30年を経過後、新しく受益者となる人は
一人のみであり、その人が死亡した段階で
信託は終了する。」
ということになります。
以上、「家族信託の終了事由、どう定める?」
というテーマでお伝えをさせていただきました。
顧客に信託を提案する際、
信託契約書の作成をする際には、
ぜひとも参考にしてくださいませ