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家族信託について

2019年10月25日

 

今回の事例は、障害を持つ子がいる家庭の
家族信託についてです。

―・◆本日の目次◆―・―・―・―・―・―・
1. 家族の抱える問題
2. 障害者支援のための信託において、
注意すべきこと。
3. 当事者の不安に対し
サポートできること
4. おわりに
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・

1. 家族の抱える問題

まずは以下に今回の事例の概要をまとめます。
【案件概要】
■信託財産
・賃貸併用住宅(好立地の1棟マンション)
※母親名義
■家族構成

長女(既婚、未成年の子供3人あり。)
長男(障害あり)
■信託の目的
委託者(母)の認知症対策
(収益物件の適正な管理・運営の維持)及び
委託者(母)の亡き後、第二受益者の
生活のサポート

本件は、
弊社が普段お付き合いをさせていただいている
税理士の先生からのご紹介いただいた案件です。

税理士の先生が今回のお客さま(母親)
名義のマンションの収益について、
確定申告を担当されており、
お客様に対して家族信託の必要性を
ご説明いただいたところ、

具体的なご相談を弊社にいただける運びと
なりました。

このお客様の持つ一番の課題は、
長男が障害を持っており、
単独で生活をすることが困難である
ということでした。

ご相談いただいた当時は、
長男は施設に入居していて、
母親が自身の所有するマンションから生じる
収益から、生活費を支払っている状況でした。

今後、母親が認知症になり
財産を管理できなくなった場合や、
死亡した後に、誰が長男の面倒をみるのか、
しっかりと決めておく必要がありました。

幸い、本事例では長女が、
母の居所の近隣に住んでいて、
母の後継としてマンションの管理と
長男の生活の面倒を見る
という意思は固まっていましたので、
長女を受託者とする信託を設計しました。

本件の家族信託の構造は次のとおりです。

「委託者」

「受託者」
長女
「受益者」
母の生前・・・母及び長男
母の相続後・・・長女及び長男
「信託財産」
賃貸マンション 1棟

上記のような家族信託を設計しました。

2. 障害者支援のための信託において、
注意すべきこと。

本件の信託契約にはいくつか論点が
ございますので、一つひとつ説明していきます。

★ 一部他益信託とする必要がある。

今回の信託では、受益者を、
「母の生前は、母及び長男」と設定しました。

通常の信託では、委託者と受益者が同一である
「自益信託」にすることにより、贈与

税の課税を避けるよう家族信託を設計します。

しかし、本事例において、
完全な自益信託として設計してしまうと、
受益者は母親のみとなり、
信託財産から生じる収益は、
すべて母親のものとなってしまい、

長男の生活費を賄うことが
できなくなってしまいます。

したがって、本事例では、信託当初より、
受益者を母及び長男とし、
一部他益信託として設計します。

ここで問題となってくるのが、
贈与税の課税の問題です。

なにも手当をせずに、
長男を受益者とする信託を設計してしまうと、
長男が生活費として受け取った金銭は、
贈与されたものとみなされ、
贈与税の課税がなされる恐れがあります。

母親が収入の無い長男の生活費を支払うことは、
贈与税の課税対象ではないはずですが、
家族信託を組成する際にはこのような
課税のリスクにも注意を払う必要があります。

そもそも、家族間での生活費の負担に贈与税が
課されない根拠はどこにあるのでしょうか?

答えは、相続税法の次の条文にあります。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
相続税法
第二十一条の三 (贈与税の非課税財産)
次に掲げる財産の価額は、
贈与税の課税価格に算入しない。
二 扶養義務者相互間において生活費又は
教育費に充てるためにした贈与により
取得した財産のうち通常必要と認められるもの
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

つまり、扶養義務として生活費、教育費を
支払う行為には、贈与税は課税しない

という旨が明記されているのです。

信託契約書の内容も、
長男の受益権が母親の扶養義務の範囲内である
ということを明記し、

上記条文が適応されるべきである旨が
明確にしておくことにより、
課税のリスクをなるべく回避します。

例えば、信託契約書上の書き方は、
下記のようになります。

「長男の有する受益権は当初委託者からその子
である長男に対する扶養義務の範囲内とする。」

★受託者の後継者の問題

当初の受託者は長女ですが、長女よりも、
長男が長生きした場合、
受託者としての長女の役割を引き継ぐ後継者が
必要となります。

本事例では、受託者には、3人の子がいますが、
いずれも未成年のため、将来のことを考えると、

子供達には、
あまり負担をかけたくないというのが、
長女(受託者)の本音でした。

そのような場合には、
信託報酬を設定することにより、
当事者の負担感を軽減する方法があります。

受託者の候補が未成年であるような本事例では、
実際に受託者を誰にするのかは、
将来的に決定することとし、信託契約時には、
後継受託者の決定方法のみ定めておく
とよいでしょう。

また、その後継受託者には、
その信託事務の負担感を軽減させるため、
信託報酬を設定しておきます。

さらに、受託者の負担を減らす策としては、
家族信託と任意後見制度を併用する方法
もあります。

財産(マンション)の管理については
受託者が行いますが、その他の生活のサポート
(施設の選定や、生活費の管理)については、
任意後見人に任せるといった形です。

ただし、受託者と任意後見人とは、
利益相反の立場(法律上、契約の対立当事者)
となるため、同一人物が、両方を兼ねるという
設計はできませんので、注意が必要です。

3.当事者の不安に対しサポートできること

この事例では、長女が、長男の介護について、
非常を強い不安を持たれていました。

そこで、信託に関する相談にとどまらず、
介護についても、ケアマネジャー等に相談
するのが通常である旨をご案内しました。

ケアマネジャーには、
介護保険の手続きを行うのみならず、
施設と要介護者との調整を行う役割や、
介護プランを作成する役割もあります。

ケアマネジャーの役割や、実際に相談する時
のイメージなどを丁寧に説明することにより、
少しずつ、
長女の不安感を解消することができました。

また、事例によっては、委託者(母)が、
自分の死後、本当に受託者(長女)が、
長男の面倒を見てくれるのか、
不安を抱いている場合もあります。

そのような場合には、私たち士業が、
信託監督人として、受託者の業務を監督する
ことができる旨をご案内する場合もあります。

信託監督人は、
受託者からその業務の報告を受け、
受託者を監督する立場です。

受託者が、一人で信託事務を行うことが
不安な場合や、
第三者の監視を入れたい場合には、
士業などが信託監督人に就任することも
可能です。

4.おわりに

この信託案件の組成後、受託者である長女に
「やっとすっきりしました。安心できました。」

という言葉を頂きました。

長女も、
長男の面倒を見なければいけないことについて、
漠然とした不安を常に抱いていた
ということでしょう。

障害を持つ家族には、
障害者の身上監護と財産管理という
非常に重大な問題があり、

その悩みは非常に切実です。

家族信託の普及により、
このような方々の悩みを少しでも解決に向かう
ことができればと思います。

以上、今回は障害を持つ子がいる家庭の
家族信託の事例についてご紹介をさせて
いただきました。