信託の不動産取得税
2019年10月25日
「見落としてはいけない!家族信託の不動産取得税」
というテーマをお伝えさせていただきます。
―・◆本日の目次◆―・―・―・―・―・―
1.不動産取得税の税率
2.不動産取得税が、かかる場合、
かからない場合。
3.不動産取得税の注意点
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1.不動産取得税の税率
不動産取得とは、不動産の取得に対して
課税される地方税であり、
通常、売買や贈与で不動産を取得した場合に
問題となります。
不動産取得税の税額は、
原則 固定資産税評価額 × 4% です。
ただし、下記の2つの例外があります。
【1】 土地及び住宅については、税率 3%
(平成30年3月31日まで)
【2】宅地については、
その評価を固定資産税評価額の2分の1
実際に計算してみると、
例えば、1000万円の宅地を取得した場合、
1000万円×1/2(宅地の例外)
×3%(土地の税率)=15万円(税額)
となります。
ご覧のとおり、決して安くない金額が
課税されますので、家族信託を扱う場合には、
相続税や贈与税とともに、その課税非課税の
判断は、注意して頂きたいポイントです。
2.不動産取得税が、かかる場合、
かからない場合。
不動産を信託し、
受益権化してしまうことにより、
売却時の不動産取得税を節税するという
商事信託のスキームがありますが、
家族信託にも、不動産取得税に関する論点があ
ります。
不動産取得税についてのポイントは、
次の5つです。
【1】委託者から受託者への信託に基づく
所有権の移転は、非課税
【2】受益者の変更
(相続や売買等原因は問わない。)は、非課税
【3】信託終了時に、当初の委託者に不動産を
引継ぐ場合は、非課税
【4】信託終了時に、当初の委託者の相続人に
不動産を引継ぐ場合は、非課税
【5】受益者連続型信託で、
委託者の孫へ不動産を引継ぐ場合は、課税
順に、説明させていただきます。
【1】委託者から受託者への信託に基づく
所有権の移転は、非課税
信託をすると、委託者から受託者へ
不動産の所有権が移転するため、
受託者は、信託不動産を取得することに
なります。
不動産取得税は、不動産の取得(所有権の移転)
に課税されるため、
原則どおりであれば、
信託をすると受託者への不動産取得税が
課税されることになりますが、
地方税法には、次のような例外規定が
設けられています。
――――――――――――――――――――
地方税法
(形式的な所有権の移転等に対する
不動産取得税の非課税)
第七十三条の七
道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、
不動産取得税を課することができない。
三 委託者から受託者に信託財産を
移す場合における不動産の取得
―――――――――――――――――――――
上記のとおり、信託開始時の委託者から
受託者への不動産の移転は、
例外として扱われているため、非課税なのです。
【2】受益者の変更
(相続や売買等原因は問わない。)は、非課税
受益者の変更の本質は、
受益権の相続又は譲渡です。
受益権が相続又は譲渡の対象となっているため、
不動産の所有権の移転はありません。
従って、不動産取得税は課税されません。
【3】信託終了時に、
当初の委託者に不動産を引継ぐ場合は、非課税
信託終了時に、受託者から、
委託者やその相続人に不動産を引継ぐ場合も
【1】と同様、地方税法の例外規定があります。
―――――――――――――――――――――
地方税法
第七十三条の七
道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、
不動産取得税を課することができない。
四 信託の効力が生じた時から引き続き
委託者のみが信託財産の元本の受益者である
信託により受託者から当該受益者
(次のいずれかに該当する者に限る。)に
信託財産を移す場合における不動産の取得
イ 当該信託の効力が生じた時から
引き続き委託者である者
ロ (略)
―――――――――――――――――――――
この条文のイに言及があるのは、
当初の委託者(そもそもの財産の所有者)が
存命のうちに信託が終了し、不動産が
受託者から当初の委託者(元の所有者)へ
戻される場面です。
当初の委託者から受託者へ、
形式的に所有権が移転されたのみである
信託の場面では不動産取得税は、
課税されないという結論になります。
【4】信託終了時に、当初の委託者の相続人に
不動産を引継ぐ場合は、非課税
こちらについては、
事例に基づき説明をいたします。
例えば、
・委託者兼受益者 A
・受託者 B
・財産の帰属権利者 Aさんの子C
・信託の終了事由 Aの死亡
とする信託があったとします。
Aさんが死亡した場合、信託は終了し、
信託契約の規定のとおり、その残余財産は、
Aさんの子Cさんに引き継がれることに
なります。
この場合、受託者BからCへ、
信託不動産が移転することとなるため、原則は、
不動産取得税が課税されます。
ただし、【3】と同じ条文にて非課税の手当が
なされています。
―――――――――――――――――――――
四 信託の効力が生じた時から引き続き
委託者のみが信託財産の元本の受益者である
信託により受託者から当該受益者
(次のいずれかに該当する者に限る。)に
信託財産を移す場合における不動産の取得
イ (略)
ロ 当該信託の効力が生じた時における
委託者から(中略)相続をした者
―――――――――――――――――――――
【4】のパターンは、
そもそも信託をしなければ、
その不動産はCに相続されていたものであり、
Cに不動産が承継されるのであれば、
通常通り相続された場合と同様、
不動産取得税は課すべきではないという
政策的な配慮がなされているわけです。
注意が必要なのは、【3】【4】のパターンとも
に、
「信託の効力が生じた時から引き続き
委託者のみが信託財産の元本の受益者である信
託」
つまり、
「信託開始時から、委託者=受益者の構造が
崩れていないこと」を要件としています。
実務上は、この要件を満たすために、
信託契約の中に委託者の地位が相続される旨を
明記をするなどして、委託者=受益者の構造が
崩れないように注意します。
【5】受益者連続型信託で、委託者の孫へ
不動産を引継ぐ場合は、課税
【4】のパターンで、残余財産の帰属権利者が
Cさんの子Dさんにだった場合は
どうでしょう?
この場合、地方税法 第七十三条の七
第四号ロの要件
「当該信託の効力が生じた時における
委託者から相続した者」の要件に該当しません。
従って、受託者からDさんへ信託財産が
引継がれる場合、不動産取得税が課税されます。
3.不動産取得税の注意点
不動産取得税については、毎年、都道府県から、
納税の通知書が届きます。
都道府県は、不動産登記簿の情報を形式的に
把握し、納税の通知書を送付するため、
登記簿上からは把握できない相続関係等が
存在すると、本来課税すべきでない不動産の
取得に対して、納税通知書が送付されてしまう
といったことが想定されます。
具体的には、前掲の【4】のパターンです。
この場合、登記簿上からは、非課税の判断が
つかないため、納税通知書が不動産の名義人に
送付されてしまうことが想定されます。
また、前掲【1】~【4】の非課税の措置を
受けるために、申告が必要な自治体もあります。
取り扱いが、自治体によって、まちまちであり、
さらに、担当職員の方々に非課税条文について
の詳しい知識がないことも想定されます。
顧客への案内を失念してしまうと、
誤った課税や納税がなされたり、
むやみに顧客を不安にさせてしまう恐れが
ありますので、不動産取得税の課税、
非課税の論点は、是非とも抑えておきましょう。