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先祖代々の土地を継承させる家族信託

2019年10月25日

今回の事例は、
先祖代々の土地を承継させるための家族信託
を紹介いたします。

―・◆本日の目次◆―・―・―・―・―・―・
1.先祖代々の不動産が他人に相続されてしまう?!
2.跡継ぎ遺贈型家族信託とは?
3.忘れてはいけない、不動産取得税課税
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

1.先祖代々の不動産が他人に相続されて
しまう?!

今回の依頼者は、先祖代々の土地と
その上のご自宅を所有する田中さんです。

田中さんの家族構成は次のとおりです。

田中さん(70)男性・妻は既に他界
長男(45)(子供なし)・・田中さんと同居
長男の妻(44)
長女(40)(子供1人有)・・田中さんとは別居

現在は、田中さんと、長男夫婦の3人で
田中さんの所有する自宅に住んでいます。

この先祖代々の土地と
その上に立つ建物について
田中さんは、同居している長男に
相続してほしいと考えています。
また、長男夫妻、長女夫妻ともに、
田中さんの考えには同意しています。

当初は、通常の遺言を作成し、
長男に相続させることを考えていたそうですが、
長男夫妻に子供がいないため、
次のような問題があるということで
弊所にご相談いただきました。

問題とは、仮に、通常の遺言を作成し、
年齢順に相続が発生した場合には、
田中さんの死亡時には、
遺言のとおり不動産は長男に相続されます。

次に、長男が死亡した時の相続人は、
長男の妻(4分の3)と
長女(4分の1)になります。

さらに、長男の妻が死亡した場合には、
長男の妻が相続した持分4分の3は、
長男の妻には子供がいないため、
長男の妻の兄弟姉妹(田中家と血縁なし)が
相続人となります。

先祖代々の土地とその上の自宅が、
長男の妻の兄弟姉妹という、
田中家以外の方へ相続されることに
なってしまうのです。

先祖代々の土地は、やはり田中家の人間に
相続をさせたいというのが、
田中さんの強いご希望でした。

そこで、田中さんのご希望を叶えるため、
遺言の代わりに家族信託を
利用することを提案させていただきました。

2.跡継ぎ遺贈型家族信託とは?
弊社が提案させていただいた家族信託の概要は
次のとおりです。

≪委 託 者≫ 田中さん
≪受 託 者≫ 長女
≪受 益 者≫
第一受益者 田中さん
第二受益者 長男
第三受益者 長男の妻
≪帰属権利者≫ 田中さんの孫(長女の子)

このように、受益権の承継先を、
田中さん→長男→長男の妻
と順次、指定する家族信託を
【跡継ぎ遺贈型家族信託】といいます。

順を追って、
【1】受託者【2】受益者【3】帰属権利者
についてご説明いたします。

【1】受託者
受託者は長女に担当して頂きました。

長男夫妻のどちらかが受託者となった場合、
受託者が受益権の全部を固有財産とした状態が
1年間継続した場合には、信託が終了するため、
(信託法163条第2号)注意が必要です。
※なお、受益者が複数名いる場合には、
終了事由には該当しません。

【2】受益者
本事例の場合、自宅の家族信託であるため、
受益権の内容は主に居住権となります。

受益者は、信託当初は田中さんと設定しました。
いわゆる自益信託にすることによって、
贈与税の課税を避けるためです。

次に、田中さんが死亡すれば、
受益権が長男に引き継がれ、
長男が死亡すれば、長男の妻に
引き継がれるように設計しました。

田中さんのご希望として、
長男の妻には、亡くなるまで安心して
自宅に住んでほしいというお気持ちが
ありましたので、長男の妻も受益者として
権利を取得します。

もちろん、長男と長男の妻の死亡の前後は、
信託契約時点では分かりません。
長男の妻が長男より先に死亡した場合には、
長男が死亡した時点で、
信託終了に向かうような
契約内容にしておく必要があります。

【3】帰属権利者

田中さんと長男夫妻の全員が亡くなった時点で、
信託は終了します。

残余財産(不動産)は、帰属権利者として、
田中家の直系である孫が財産を承継します。

3.忘れてはいけない、不動産取得税課税

田中さんの事例では、不動産の所有権は、
下記のように二度移転することになります。

【1】委託者から受託者へ、信託による移転

【2】受託者から帰属権利者へ、
信託終了による移転

この二度の不動産の所有権の移転について、
不動産取得税の課税はどうなるのでしょうか?

不動産取得税の課税は、原則、
不動産を取得したすべての者に対して
課税されます。
―――――――――――――――――――――
地方税法
第七十三条の二
不動産取得税は、不動産の取得に対し、
当該不動産所在の道府県において、
当該不動産の取得者に課する。
―――――――――――――――――――――
家族信託に伴う不動産の取得は、
その実質が相続であったり、
形式的な不動産の取得に過ぎない場合も
あるため、
例外として非課税の要件が
いくつか定められています。
(地方税法第73条の7)

【1】については、
信託に伴う形式的な所有権の移転のため、
非課税の要件に該当するため、
不動産取得税は課税されません。

根拠条文は下記のとおりです。

―――――――――――――――――――――
地方税法
第七十三条の七
道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、
不動産取得税を課することができない。
三 委託者から受託者に信託財産を移す場合に
おける不動産の取得
―――――――――――――――――――――
【2】については、非課税の要件には
該当しません。
もし、帰属権利者が、田中さん(当初の委託者)
の相続人である場合、
その実質が相続であるという理由から、
不動産取得税が課税されないのですが、
孫は、相続人ではないため、
原則どおり、不動産取得税が
課税されてしまいます。

なお、帰属権利者が当初委託者の
相続人である場合の、
非課税の根拠は、下記のとおりです。
―――――――――――――――――――――
地方税法
第七十三条の七
道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、
不動産取得税を課することができない。
四 信託の効力が生じた時から
引き続き委託者のみが
信託財産の元本の受益者である信託により
受託者から当該受益者(次のいずれかに
該当する者に限る。)に信託財産を移す場合
における不動産の取得
イ 当該信託の効力が生じた時から
引き続き委託者である者
ロ (略)
―――――――――――――――――――――
受益権が3世代にわたって引き継がれるような
信託案件では、
多くの場合、不動産取得税の課税が生じます。

不動産取得税については、
見落としがちになる論点ですが、
これをきっかけにご確認いただければ幸いです。

以上、弊社で担当した家族信託の事例に基づき、
先祖代々の土地を承継させるための
家族信託について、お伝えいたしました。