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受託者の無限責任

2019年10月25日

「知らないと怖い!受託者の無限責任」

というテーマをお伝えさせていただきます。

―・◆本日の目次◆―・―・―・―・―・―

1.信託に関して生じた債務は、受託者の債務!
2.受託者が負担する債務、信託財産責任負担
債務とは?
3.受託者が無限責任を負う場合、
負わない場合。
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1.信託に関して生じた債務は、受託者の債務!

賃貸マンションが老朽化した場合、
オーナーが金融機関から資金を借り入れ、
その資金をもって、賃貸マンションの修繕を
行うというケースはよくあります。

では、その賃貸マンションが、
信託財産であった場合は、
その借入の借主(債務者)は
誰になるでしょうか?

この場合、受託者が借入の借主(債務者)
となります。

受託者が負担する負債としては
様々なものが想定され、
また信託法には受託者の債務に関する
特殊な規定も存在します。

家族信託における受託者の債務について、
少し掘り下げて解説をさせていただきます。

2.受託者が負担する債務、
信託財産責任負担債務とは?

受託者が負担する債務を信託法では、
「信託財産責任負担債務」と呼んでいて、
下記のとおり、信託法第21条に
規定されています。

信託法第21条
次に掲げる権利に係る債務は、
信託財産責任負担債務となる。
【1】 受益債権
※受益者に対して財産を給付する債務
【2】 信託財産に属する財産について信託前の
原因によって生じた権利
※例えば、入居者がいる状態で
賃貸マンションを信託した場合の、
信託後、マンションを入居者に貸す債務
【3】 (略)信託財産責任負担債務とする旨の
信託行為の定めがあるもの
※信託する前から存在することが必要です。
【4】 略
【5】 信託財産のためにした行為であって
受託者の権限に属するものによって生じた権利
※例えば、賃貸マンションを信託した場合に
おいて、信託後に受託者が契約した入居者に
対するマンションを貸す債務
【6、7】 略
【8】 受託者が信託事務を処理するについて
した不法行為によって生じた権利
【9】 略

これらの債務はすべて、受託者が負担する
債務(信託財産責任負担債務)です。

冒頭で例に挙げた、マンションの修繕費用の
借入は、上記のうち、【5】に入ります。

信託法上、これらの信託財産責任負担債務は、
「受託者が信託財産に属する財産をもって
履行する責任を負う債務」(信託法第2条9号)
と定められています。

この条文は、一見「信託財産をもって支払えば
いいのだから、受託者は有限責任である。」
と読めますが、実際には異なり、
受託者が無限責任を負う場合もあります。

3.受託者が無限責任を負う場合、
負わない場合。

さて、受託者が無限責任を負うということは、
具体的には、どういうことでしょうか?

冒頭で述べたマンションの
修繕のため、金融機関から借り入れをした事例
で考えてみましょう。

もし、マンションの経営がうまくいかず、
最初にプールしておいた信託財産(現金)や
月々の賃料では、金融機関への返済を
賄いきれなくなった場合は、
受託者の固有財産から債務の返済を行う
必要があります。

これが、受託者の無限責任です。

信託法上は、受託者が信託事務遂行の必要上、
受託者の固有財産から支出した費用に
ついては、事後に有利子で信託財産から
償還をうけることができる旨の規定
(信託法第48条第1項)があります。

しかし、賃貸マンションの経営が
うまくいっていない状態の場合、
償還を受けることが現実的にできない場合も
想定されます。

信託法は、原則、受託者が負担する
債務はすべて、受託者の無限責任と
定めています。

しかし、例外的に、次の債務についてのみ、
受託者は、有限責任しか負わないと定めて
います。(信託法第21条第2項)

【1】 受益債権にかかる債務
【2】 限定責任信託の場合の受託者の債務
【3】 略
【4】 債権者との間で信託財産限定特約を
交わした場合の受託者の債務

【5】・・・受益者の受益債権にかかる債務です。
受益者が信託財産の範囲を超え、
受託者の固有財産の給付を請求することは、
そもそもの信託法の趣旨から逸脱するため、
有限責任となっています。

【2】【限定責任信託】及び
【4】【信託財産限定特約】
・・・一定の要件を満たすことにより、
受託者の責任を有限責任とすることが
できる旨の規定です。

信託法改正に伴って新設されました。

【2】【限定責任信託】とは、信託組成時に、
限定責任信託である旨を契約書等に
定めるとともに、その登記をすることにより、
受託者の責任を有限責任とすることができる
信託です。

受託者が第三者と取引する際に、その都度、
限定責任信託の受託者として取引をする旨
を相手方に表示する必要があります。

限定責任信託の登記は、全国の統計で、
平成26年に1件、平成27年に3件、
平成28年に8件、新規で登記されており、
件数としては伸びていますが、
ほとんど利用されていないのが実情です。

【3】【信託財産限定特約】とは、
取引の相手方と交わす
「信託財産に属する財産のみをもって
その履行の責任を負う旨」の合意
のことをいいます。

この合意をすることによって、
当該取引については、受託者は、
信託財産の範囲でのみ債務を負うだけで
済むことになります。

信託財産限定特約は、
【2】の限定責任信託とは異なり、
通常の家族信託において、特定の取引に
関してのみ、有限責任とすることが可能です。

受託者がどこまで債務を負う可能性が
あるのかという点は、家族信託の活用において
非常に重要な論点となります。
家族信託において、受託者がどのような債務を
負うことになるかの説明は、専門家サイドで
十分にできる必要があることは当然ながら、
場合によっては、限定責任信託の活用によって、
受託者の保護を図っていくことも、
家族信託を提案する専門家の大きな職務の一つ
であると考えられます。

現状、限定責任信託の活用件数は
極めて少ないですが、
家族信託の普及にともない、活用件数は
増加していくことが推察されます。

受託者の責任の範囲と
そのコントロールについては、
しっかりと理解しておきましょう。